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人類が「神の手」を持ったとき

私は、理科系の中でも、好きな分野は、「量子論」や「宇宙論」の理論物理系であります。

この分野が、一番現実離れしており、あまり金にならない分野で、であるがゆえに、夢とロマンを掻き立てるからであります。

一方、生物系は、特に生命科学は、現代では、「金のなる木」であり、ゆえに、現実のどろどろとした人間味(悪い意味での)が反映され、あまり積極的に関わっておりませんでした。

しかし、時代はもう、そんなことを言ってる場合ではないようです。

「金のなる木」であるがゆえに、この分野の進歩は、すさまじいものがあります。

今、生命科学は、大げさではなく、本当に「神の手」を持ってしまったのかもしれません。

科学普及を、広く一般に浸透させたいクリオネにとりまして、これは、是非、勉強して、普通の言葉で解説しなければ、と思い、鍵盤に向かっております。

実は、昨年末に、関連本を4冊ほど仕入れ、正月に一気に読もう、なんて考えていたのですが、諸般の事情が許さず(単に私が怠けていたのですが)、やっと1冊目を読み終わりました。

まずは、この本から。

書名:ゲノム編集とは何か

「DNAのメス」クリスパーの衝撃

講談社現代新書2384

著者:小林雅一

KDDI総研リサーチフェロー、情報セキュリティ大学院大学客員准教授

「クリスパー」という単語は、聞いたことがありますでしょうか?

これまでも、遺伝子操作という言葉はずいぶん前からあり、その成果もいろいろ話題になりました。

しかし、それは、何十万分の一、何百万分の一の確率を繰り返しての、多大なコストと労力のかかった成果だったのですが。

今、クリスパーの技術を使うと、ワープロで「コピペ」するように、2週間も訓練を受ければ、高校生でも、的確に目的の遺伝子を操作できるようになったのです。

バクテリアで発見された、DNA塩基配列の一部であるクリスパーは、過去に自分を攻撃したウイルスの遺伝子情報(DNA配列)を書き込む部分であります。

次に同じウイルスと接触したとき、このバクテリアは、この塩基配列と照合して、これが自分の敵であることを認識します。

もう一つ、バクテリアのDNA上でクリスパーの近くに存在する、Csn1という遺伝子から発現するタンパク質があります。

それは、DNAを特定の場所で切る「ヌクレアーゼ」と呼ばれる酵素の一種でもあり、このCsn1がクリスパーと連携することによって、バクテリアの大敵であるウイルスなど外部からの侵略者を正確に特定し、一種の分子的なハサミ、あるいはメスのように、ウイルスの塩基配列をスパッと切断し、殺してしまうのです。

これが、免疫機能の基本にあります。

免疫機能というのは、まさに、生物が自然に行っている、遺伝子操作なのです。

ウイルスのDNAを、狙った場所(特定の塩基配列)で切断するクリスパーのメカニズムが、単にウイルスのみならず、私たち人間を含む動物や植物など、あらゆる生物のDNAに適用できることが、実験で証明され、さらにDNAを切断した場所に、「ある長さの塩基配列」を挿入し、そこから再びDNAをつなぎ直せることもわかってきました。

これによってクリスパーは、生物のDNAを自由自在に切り貼りする、ゲノム編集の最新ツールへと発展し始めたのです。

遺伝子を改良することは、いずれ、現在の美容整形手術と同じくらい、頻繁に行われるようになるだろう、と語る学者もいます。

また、別の生物倫理学者は「ヒトのゲノム(DNA)は不完全であり、これを完全なものとする技術であるクリスパーを支持することは、倫理的義務である」と語っています。

ですが、このような考え方は、いわゆる「デザイナーベビー」の誕生にもつながりかねません。

最終章で著者は、このように述べています。

【ここから概略引用】

「そうしたことができる」、あるいは、「しても全く安全だ」ということが、科学的に立証されたとき、それに「待った」をかけるのは一体誰なのか?

政府、倫理学者、それとも保守的NGOだろうか?

仮に政府だとした場合、彼らにそれを規制、あるいは禁止する権利はあるのだろうか?

もしも多くの国民が「自分の、あるいは生まれてくる子供のDNAを改良して、よりよい人生に変えたい」と望んだとき、「それを、やってはいけない」と説得するための合理的な理由を、未来の政府は見出すことができるのだろうか?

私たち人類は、自らとそれを取り巻く動植物などの生態系を、自由自在に設計する力を手にいれようとしている。

私たちの生み出した科学が、「神の領域」に踏み込もうとしている今、私たちの心と身体は相変わらず、無知と不安が渦巻く「ヒトの世界」に取り残されたままだ。

しかし私たちはもはや、後戻りは許されない。

技術的にそれが可能になったとしても、大きな問題が残されている。

それは倫理面でのガイドラインが存在しないことだ。

本書で指摘したように、ゲノム編集によって生物のDNA(いのち)を自由自在に操作するという、いわば「神の領域」に人類が踏み込もうとしている今、私たちの行くべき道を指し示してくれる道標が見当たらないのだ。

【引用終わり】

そして著者は、最後にこう結んでいる。

【引用開始】

従来の神(自然)に代わって、人類自身が自らの寿命をコントロールする時代が訪れたとき、人は何歳まで生きることが許されるだろうか?

これに対する答えを、「合理主義」や「愛」から導き出すことはできないだろう。

従うべき何かを見出す前に(神のごとき)「全能の技術」を手に入れてしまった私たち人類は、これから、どう進むべき道を決めていけばいいのか?

【引用終了】

原子力は、広島、長崎、チェルノブイリで、多くの命を奪い、スリーマイルや、福島でも、大きな負の遺産を残しました。

遺伝子の改変によって、私たちの顔、身長、体型、性格、知能、運動能力が、望み通りに変えられるようになった時、トランプや、プーチンや、習近平や、金正恩のような為政者が、それを自由に操ろうとしたら、どんな社会が待っているのでしょうか?

【あとがき】

1冊の本を、しかも、最先端の科学技術の内容を、できるだけ短く、しかし、エキスは落とさずに、精一杯頑張ってみました。

是非、皆様の、考えていただくきっかけにしていただければ、苦労が報われます。m(__)m

注:

・なるべく短く読みやすいようにするため、概略引用は、できるだけ趣旨を外さないように気をつけながら、一部編集しています。

・引用部分も、改行、読点の追加、変更を行っています。

・「Csn1」は、「Cas9」と改名され、クリスパーツールは現在、「CRISPR/Cas9(クリスパー・キャスナイン)」と呼ばれることが多い。